「まったく……もう少し辛抱しなさいと言ったでしょう」「ひゃんっ……す、すみません……カスミ姉さま……ゆ、許してくださいませ…」 湯気の立ちこめる風呂場に、少女達の声が響く。 綾瀬の里にある温泉街は、多くの旅人を泊める旅籠が多い。ここもまたそうした場所の一つ。 べそをかいて許しを請う妹分の姿は、愛くるしく、同情を誘うものでもあった。同性のカスミにすら立場を忘れさせ良からぬ感情をいだかせるその...
燦々と日の照らすプールサイド。まだ少し肌寒い風は残るが、プール開きとしては絶好の日和である。けれどその中でたった一人、須崎未果は楽しげにはしゃぐ6年3組34人から離れ、ひとりプールサイドに座って体を小刻みに震わせていた。 調子が悪くて見学している生徒。傍からはそう映るかもしれない。 だが、彼女は今、強烈な尿意と必死に戦っているのだった。(どうしようっ……お…トイレ……っ) ぐっと奥歯を噛...
事故による渋滞に巻き込まれ、高速の料金所の前でうごけなくなったワンボックスの中。羽田霧香は、3人の友人達と共にかつてない窮地に立たされていた。 ワンボックスには霧香の友人である4人のクラスメイトと、運転手兼保護者役の親友の姉、三佳子が乗っている。予定にまったくない長時間の拘束によって、車内の少女たちは、迫り来る危機に小さく身体を震わせていた。「あー、こりゃダメだね……ぜんぜん動かないや」 ...
バスを降りるのは愛理にとって屈辱の決断だった。 厳しい躾の元で育った愛理にとって、トイレ以外で用を足すなんて、絶対にあってはならない事のはずだ。いや、そもそも普通の女の子であれば2年生にもなってバスの物陰でおしっこなんて、よっぽどの事がなければするべきではない。 だが――今はまさに、その『よっぽどの』事態だ。(――だ、だって……バスの中で……なんて……っ) 虚栄心に縋って最悪の事態を迎える...
バスを降りるのは愛理にとって屈辱の決断だった。 厳しい躾の元で育った愛理にとって、トイレ以外で用を足すなんて、絶対にあってはならない事のはずだ。いや、そもそも普通の女の子であれば2年生にもなってバスの物陰でおしっこなんて、よっぽどの事がなければするべきではない。 だが――今はまさに、その『よっぽどの』事態だ。(――だ、だって……バスの中で……なんて……っ) 虚栄心に縋って最悪の事態を迎える...
お城はいつになく華やかに賑わっていた。いつもは限られた一部の王族達がささやかな宴に興じる大広間も、今日は特別に招待された大勢の人々で埋め尽くされている。普段は王様にお目通りもかなわない商人や位の低い貴族、それに国の外れの村長まで。お城でめったに見ない顔触れが多いのは、王子様のお妃を決める舞踏会が開かれているからだった。 大きな柱時計が飾られた大広間はこの世のもととは思えないほどに美しく飾...